sober空間の位相的性質と順序位相におけるsober性
本稿では、位相空間論および代数幾何学(スキーム論など)で重要な役割を果たす sober空間 (sober space) について、その基本的な定義から出発し、部分空間、商空間、直積、直和といった位相的演算に対する振る舞いを詳細に解説します。また、半順序集合上の位相である Alexandroff位相 (Alexandroff topology) および Scott位相 (Scott topology) において、空間がsoberになるための必要十分条件や十分条件について、自己完結的 (self-contained) な証明とともに論じます。
1. 基礎概念の定義
議論を厳密にするため、まずは基本となる位相的・順序的定義を確認します。
定義 1.1: $T_0$ 空間 (Kolmogorov space)
位相空間 $X$ が $T_0$ 空間であるとは、任意の相異なる2点 $x, y \in X$ に対し、一方が他方の開傍ら(開近傍)に含まれないこと、すなわち $x \notin \overline{\{y\}}$ または $y \notin \overline{\{x\}}$ が成り立つことをいう。
定義 1.2: 既約閉集合 (irreducible closed set) と生成点 (generic point)
位相空間 $X$ の空でない閉集合 $C$ が既約 (irreducible) であるとは、$C = C_1 \cup C_2$ を満たす任意の閉集合 $C_1, C_2 \subseteq X$ に対し、$C = C_1$ または $C = C_2$ が成り立つことをいう。これは、「任意の開集合 $U, V$ が $C$ と交わるならば、$U \cap V$ も $C$ と交わる」ことと同値である。
閉集合 $C$ に対し、ある点 $x \in C$ が存在して $C = \overline{\{x\}}$ となるとき、$x$ を $C$ の生成点 (generic point) と呼ぶ。
定義 1.3: sober空間 (sober space)
位相空間 $X$ が sober空間 (sober space) であるとは、任意の空でない既約閉集合 $C$ が、唯一の生成点を持つこと、すなわち $C = \overline{\{x\}}$ を満たす $x \in X$ がただ1つ存在することをいう。
(生成点の一意性は、$X$ が $T_0$ 空間であることを含意する。)
2. sober空間の位相的演算
Sober空間の位相的な演算(部分空間、商空間、直積、直和)に関する振る舞いを解説します。
2.1 部分位相空間 (subspace)
結論:一般には sober ではありません。
任意の $T_0$ 空間 $X$ は、ある sober空間の部分空間として稠密に埋め込むことができます。この構成を $X$ の sober化 (soberification) と呼びます。Sober化は、位相空間の圏から sober空間の圏への左随伴関手を与えます。したがって、「$T_0$ 空間であるが sober でない空間」は、常に sober空間の部分空間として実現できるため、部分空間が sober になるとは限りません。
反例:sober空間の sober でない部分空間
無限集合 $X$ に補有限位相 (cofinite topology) を入れた空間を考えます。この空間において、閉集合は有限集合と $X$ 全体のみです。
この空間は $T_1$ 空間であるため当然 $T_0$ 空間ですが、$X$ 全体は既約閉集合であるにもかかわらず、どの単一点の閉包でもない(有限集合にならない)ため、生成点を持たず、sober ではありません。
この $X$ の sober化 $\tilde{X}$ を考えると、$\tilde{X}$ は sober空間ですが、その部分空間として埋め込まれた $X$ は sober ではありません。
例外(sober になる場合): Sober空間の閉部分空間 (closed subspace) や開部分空間 (open subspace) は常に sober になります。より一般に、局所閉部分空間 (locally closed subspace)(開部分空間と閉部分空間の交わり)や、レトラクト (retract) も sober 性を保存します。
2.2 商位相空間 (quotient space)
結論:一般には sober ではありません。
Sober空間からの連続写像による全射(商写像)による商空間は、一般に sober 性を保存しません。
極端な例として、任意の位相空間は、ある sober空間(例えば、各点の閉包を直和で寄せ集めた 超不連結 (extremally disconnected) な極端に分離された空間など)からの全射連続写像の像として表現できる場合があります。したがって、商空間が sober でない事態は容易に生じ得ます。
2.3 直積 (product)
結論:常に sober になります。
証明:
Sober空間の族 $\{ X_i \}_{i \in I}$ を取り、その直積空間を $X = \prod_{i \in I} X_i$ とし、各成分への射影を $\pi_i: X \to X_i$ とします。
まず、各 $X_i$ は sober なので $T_0$ 空間であり、$T_0$ 空間の直積である $X$ も $T_0$ 空間です。したがって生成点が存在すれば一意です。
次に、$X$ における任意の既約閉集合 $C$ を取ります。射影 $\pi_i$ は連続であるため、像 $\pi_i(C)$ は既約であり、その閉包 $\overline{\pi_i(C)}$ も $X_i$ における既約閉集合となります。
$X_i$ は sober空間であるため、$\overline{\pi_i(C)}$ は唯一の生成点 $x_i \in X_i$ を持ちます。これらを束ねた点 $x = (x_i)_{i \in I} \in X$ を考えます。
連続写像による閉包の性質から、$C \subseteq \overline{\{x\}}$ と $\overline{\{x\}} \subseteq C$ の両方を示すことができ(直積位相の開基を用いて証明可能)、結果として $C = \overline{\{x\}}$ が成立します。よって $X$ は sober空間です。 $\blacksquare$
2.4 直和 (coproduct / disjoint union)
結論:常に sober になります。
証明:
Sober空間の族 $\{ X_i \}_{i \in I}$ の直和空間を $X = \coprod_{i \in I} X_i$ とします。
直和空間 $X$ において、各 $X_i$ は開かつ閉な部分空間、すなわち clopen な集合となります。
$X$ における既約閉集合 $C$ を取ります。もし $C$ が相異なる2つの成分 $X_j, X_k$ と交わるとすると、$C \cap X_j$ と $C \setminus X_j$ はどちらも空でない閉集合であり、それらの和集合は $C$ となります。これは $C$ が既約であることに矛盾します。つまり、既約閉集合は複数の成分にまたがることはできません。
したがって、ある単一の成分 $X_j$ が存在して $C \subseteq X_j$ となります。$X_j$ は clopen であるため、$X_j$ の相対位相における閉包と全体空間 $X$ における閉包は一致し、$C$ は $X_j$ における既約閉集合とみなせます。
$X_j$ は sober空間であるため、生成点 $x \in X_j$ が唯一存在し、$C = \overline{\{x\}}$ となります。これがそのまま直和空間 $X$ 全体の生成点となります。よって $X$ は sober空間です。 $\blacksquare$
3. 商空間が sober になるための十分条件
商空間が一般には sober 性を失ってしまうという性質を踏まえ、商空間が sober 性を保つための最も一般的で強力な位相的十分条件を解説します。
定理 3.1: 閉写像による商空間の sober 性
$X$ を sober空間とし、$q: X \to Y$ を全射な連続写像(商写像)とする。以下の2つの条件を同時に満たすとき、商空間 $Y$ も必ず sober空間になる。
1. $q$ が閉写像 (closed map) であること。
2. 商空間 $Y$ が $T_0$ 空間 であること。
証明:
1. $Y$ の任意の既約閉集合を $C$ とします。
2. $q$ が連続な「閉全射」である場合、位相幾何学の一般的な補題により、「$q(Z) = C$ を満たす $X$ の既約閉集合 $Z$ が必ず存在する」ことが知られています。
3. $X$ は sober空間なので、この $Z$ には唯一の生成点 $x \in X$ が存在し、$Z = \overline{\{x\}}$ と書けます。
4. したがって、$C = q(\overline{\{x\}})$ となります。
5. ここで $q$ は連続なので、点の閉包の像は像の閉包に含まれます($q(\overline{\{x\}}) \subseteq \overline{\{q(x)\}}$)。一方、$q$ は閉写像 (closed map) なので、$q(\overline{\{x\}})$ は $q(x)$ を含む「閉集合」です。閉包は最小の閉集合であるため、逆の包含関係 $\overline{\{q(x)\}} \subseteq q(\overline{\{x\}})$ も成り立ちます。
6. 結果として $C = \overline{\{q(x)\}}$ が成立します。つまり、$Y$ の既約閉集合 $C$ は、少なくとも1つの生成点 $q(x)$ を持ちます(この状態を quasi-sober と呼びます)。
7. 最後に、$Y$ が $T_0$ 空間であるという仮定から、生成点は必ず一意に定まります。これで $Y$ が sober であることが示されました。 $\blacksquare$
代数幾何学における応用例:
Sober空間が最も活躍する代数幾何学(スキーム論など)の文脈では、上記の「閉写像 (closed map)」という条件が自然に満たされる有名なケースがあります。
スキーム $X$ に有限群 $G$ が作用しているとします。このとき、軌道空間としての商空間 $X/G$ は、(アフィンであるなどの構成条件の下で)再びスキームとなります。スキームの有限群による商写像 $X \to X/G$ は整射 (integral morphism) と呼ばれる性質を持ち、整射は位相空間の写像として必ず閉写像になります。さらに商空間も $T_0$ になるため、先ほどの位相的十分条件にピタリと当てはまり、$X/G$ が sober空間となることが保証されます。
4. 順序位相における sober 性
半順序集合 (partially ordered set, poset) $X$ 上に定義される主要な2つの位相、Alexandroff位相 と Scott位相 の sober 性について解説し、それぞれの証明を行います。
4.1 Alexandroff位相 (Alexandroff topology)
定義 4.1: Alexandroff位相
半順序集合 $(X, \le)$ において、任意の $a \in X$ に対して $\downarrow a = \{ x \in X \mid x \le a \}$ (下方閉集合)を基本開集合(開基)とする位相を Alexandroff位相 という。この位相において、任意の開集合は下方閉集合 (downset) であり、任意の閉集合は上方閉集合 (upset) となる。
定理 4.2
半順序集合 $X$ の $\mathcal{B} = \{\{x \in X \mid a \ge x\} \mid a \in X\}$ を開基とするAlexandroff位相が sober空間であるための必要十分条件は、$X$ に無限に長い降鎖が存在しないこと、すなわち 降鎖条件 (descending chain condition, DCC) を満たすことである。
証明:
1. $T_0$ 性の確認と生成点の形状:
相異なる2点 $x \neq y$ に対し、順序の反対称性から $x \not\le y$ または $y \not\le x$ です。$x \not\le y$ とすると、開集合 $\downarrow y$ は $y$ を含みますが $x$ を含みません。よって $T_0$ です。
ある点 $x \in X$ の閉包 $\overline{\{x\}}$ は、$x$ を含む最小の閉集合(上方閉集合)なので、$\overline{\{x\}} = \uparrow x = \{ y \in X \mid y \ge x \}$ となります。
したがって空間が sober である条件は、「任意の空でない既約閉集合 $C$ が、ある $x \in X$ を用いて $C = \uparrow x$ と表せること」に帰着されます。
2. 既約閉集合の言い換え:
閉集合(上方閉集合)$C$ が既約であるとは、任意の $a, b \in C$ に対し、ある $c \in C$ が存在して $c \le a$ かつ $c \le b$ となること、つまり $C$ が下方に有向 (directed downwards) な上方閉集合であることと同値です。
3. 必要性($\implies$)の証明:
空間が sober であると仮定します。$X$ に無限に長い降鎖 $x_1 > x_2 > x_3 > \dots$ が存在すると仮定して矛盾を導きます。
集合 $C = \bigcup_{n=1}^\infty \uparrow x_n$ を考えます。$C$ は上方閉集合の和集合なので閉集合です。任意の $a, b \in C$ に対し、ある $n, m$ があって $a \ge x_n, b \ge x_m$ です。$k = \max(n, m)$ とおくと $x_k \le x_n \le a$ かつ $x_k \le x_m \le b$ であり $x_k \in C$ なので $C$ は下方に有向です。
よって $C$ は既約閉集合であり、sober 性よりある $x \in X$ が存在して $C = \uparrow x$ となります。$x \in C$ より、ある $n$ が存在して $x \ge x_n$ です。一方、任意の $m$ について $x_m \in C = \uparrow x$ なので $x_m \ge x$ です。特に $m = n+1$ とすると $x_{n+1} \ge x \ge x_n$ となりますが、これは $x_n > x_{n+1}$ に矛盾します。
4. 十分性($\impliedby$)の証明:
$X$ が降鎖条件 (DCC) を満たすと仮定します。$C$ を任意の空でない既約閉集合(下方に有向な上方閉集合)とします。$C$ の極小元全体の集合を $M$ とします。DCC より、任意の $c \in C$ に対し、$c \ge m$ となる極小元 $m \in M$ が必ず存在するため、$C = \bigcup_{m \in M} \uparrow m$ と書けます。
ここで、$C$ に相異なる2つの極小元 $m_1, m_2 \in M$ が存在したと仮定します。$C$ は下方に有向なので、ある $c \in C$ が存在して $c \le m_1$ かつ $c \le m_2$ となります。しかし、$m_1, m_2$ は $C$ の極小元であるため、$c = m_1 = m_2$ でなければならず、矛盾します。
したがって極小元はただ一つしか存在しません。それを $x$ とおくと $C = \uparrow x = \overline{\{x\}}$ となります。よって空間は sober です。 $\blacksquare$
4.2 Scott位相 (Scott topology)
一般の有向完備半順序集合 (dcpo) において、Scott位相は必ずしも sober になるとは限りません。この事実は P. T. Johnstone による歴史的な反例 (1981) で示されました。しかし、空間に連続性 (continuity) という強い条件を課すことで、Scott位相は sober になります。
定義 4.3: 連続dcpo (continuous dcpo) と Scott位相
- 有向完備半順序集合 (dcpo): 半順序集合 $X$ の任意の有向集合 (directed set) $D$ が上限 $\sup D \in X$ を持つこと。
- 遠下関係 (way-below relation, $\ll$): $x, y \in X$ に対し、$x \ll y$ とは、任意の有向集合 $D$ に対して $y \le \sup D \implies \exists d \in D, \, x \le d$ が成り立つこと。
- 連続dcpo (continuous dcpo): 任意の $x \in X$ に対し、集合 $\Downarrow x = \{ y \in X \mid y \ll x \}$ が有向集合であり、かつ $x = \sup \Downarrow x$ が成り立つこと。
- Scott位相: $U \subseteq X$ が開集合であるとは、$U$ が上方閉集合であり、かつ任意の有向集合 $D$ について $\sup D \in U \implies D \cap U \neq \emptyset$ となること。(双対的に、Scott閉集合は下方閉集合であり、有向部分集合の上限で閉じている集合である)。
定理 4.4
連続有向完備半順序集合 (continuous dcpo) の Scott位相は sober空間である。
証明:
1. $T_0$ 性の確認:
相異なる2点 $x \neq y \in X$ を取り、$x \not\le y$ と仮定します。連続性より $x = \sup \Downarrow x$ です。もし $\Downarrow x \subseteq \downarrow y$ ならば $x \le y$ となり矛盾するため、ある $z \ll x$ が存在して $z \not\le y$ となります。
$\Uparrow z = \{ w \in X \mid z \ll w \}$ は、連続dcpoの補間性質 ($z \ll w \implies \exists u, \, z \ll u \ll w$) により Scott開集合となります。$x \in \Uparrow z$ であり、もし $y \in \Uparrow z$ ならば $z \ll y \implies z \le y$ となり矛盾するため $y \notin \Uparrow z$ です。よって $T_0$ 空間です。
2. 既約閉集合が生成点を持つこと:
$C \subseteq X$ を空でない任意の既約なScott閉集合とします。集合 $D = \{ z \in X \mid \exists c \in C, \, z \ll c \}$ を定義します。
$z \ll c \implies z \le c$ であり、$C$ は下方閉集合なので $D \subseteq C$ です。
【$D$ は有向集合である】: $z_1, z_2 \in D$ とすると、ある $c_1, c_2 \in C$ について $z_1 \ll c_1$, $z_2 \ll c_2$ です。これは $c_1 \in \Uparrow z_1$, $c_2 \in \Uparrow z_2$ を意味します。$\Uparrow z_1, \Uparrow z_2$ は開集合で $C$ と交わるため、$C$ の既約性より $(\Uparrow z_1 \cap \Uparrow z_2) \cap C \neq \emptyset$ です。この交わりの元を $c_3$ とすると $z_1 \ll c_3$, $z_2 \ll c_3$ です。$\Downarrow c_3$ は有向集合であり、$c_3 \in C$ より $\Downarrow c_3 \subseteq D$ なので、$z_1, z_2$ の共通の上界 $z_3 \in D$ が存在します。
【$C = \downarrow (\sup D)$ である】: $D \subseteq C$ であり、$C$ はScott閉集合(有向集合の上限を含む)なので、$x = \sup D \in C$ です。$C$ は下方閉集合なので $\downarrow x \subseteq C$ です。逆に、任意の $c \in C$ に対し、$c = \sup \Downarrow c$ です。$z \ll c$ ならば $z \in D$ なので $\Downarrow c \subseteq D$ となり、$c = \sup \Downarrow c \le \sup D = x$ より $c \in \downarrow x$ となります。よって $C = \downarrow x$ です。
以上より、任意の既約閉集合 $C$ は唯一の生成点 $x$ を持ち、空間は sober です。 $\blacksquare$
参考文献
-
Johnstone, P. T. (1981). Scott is not always sober. Continuous Lattices (Lecture Notes in Mathematics, vol 871). Springer, Berlin, Heidelberg.
🔗 nLab: Scott topology (反例に関する言及を含む)
-
Johnstone, P. T. (1982). Stone Spaces. Cambridge University Press.
(sober空間や sober化、超不連結空間に関する包括的な位相的議論)
-
Gierz, G., Hofmann, K. H., Keimel, K., Lawson, J. D., Mislove, M., & Scott, D. S. (2003). Continuous Lattices and Domains. Cambridge University Press.
(ドメイン理論、連続dcpo、Scott位相の sober 性に関する標準的テキスト)